この記事は「穂古理タタリ」というキャラクターを使った「虚像とディスコミュニケーション」というインスタレーション作品の紹介と解説です。
「虚像とディスコミュニケーション」という作品は、2020年11月に佐賀大学で行われた「総合展2020-connect-」という学生主催の作品展のために企画、制作されたものです。開催期間の11月19日から28日までの10日間の間に「架空のバーチャルyoutuberをデビューさせて炎上、引退までの経緯をタイムリーに見てもらう」というコンセプトで穂古理タタリは10日間活動を行いました。
以下の作品解説の記事は、活動終了後の11月29日に視聴者へのネタバラしとして書き起こしたものです。
BBSのページは現在当サイトで公開していませんが(旧サイトにて運営していたコンテンツです)後日公開する予定です。
作品解説「虚像とディスコミュニケーション」
最後までこの作品を見ていただきありがとうございました。
作品というのはこのサイト、穂古理タタリのYouTubeチャンネルの動画、Twitterのアカウント、佐賀大学美術館で展示されていたパネル作品などタタリに関すること全般です。作品の正式タイトルは「虚像とディスコミュニケーション」と言います。
つまり、穂古理タタリという人物は最初から最後まで存在していませんでした。
というのも、最初から炎上して引退するまでを演じるために生み出されたキャラクターであるからです。
彼女の声を担当した人物の意思というものは関係なく、筋書き通りに運命を辿ってもらいました。彼女は偶像そのものです。
この作品は元々佐賀大学で行われた「総合展2020-connect-」という学生主催の作品展での発表のために作られました。
バーチャルYouTuberという新しいコンテンツが生み出され、偶像との境界線というものが曖昧になっているのを私は実感していました。バーチャルYouTuberとはこの現実に存在する人間として扱っていいものなのか、それとも二次元に存在する空想上のキャラクターなのか、存在が曖昧になっている様子が非常に興味深いと思いました。
だったらいっそのことこのネット上の現象そのものを作ってみようと思いました。
穂古理タタリという人物が実在の人間が意思を持って活動しているかのように動画を上げたりイベントを行ったりすることで、一種の偶像を作れると思ったのです。
何度も言うように彼女に中の人は存在しませんから炎上して特定されたというような被害は一切ありません。YouTubeに上げた実写映像もわざと撮影しました
このサイトのBBSもすべて私自身が書き込んだ自作自演です。書き込んでいるユーザーが生きているかのようにリアルタイムで更新していくという手をとりました。
一応本当のユーザーが書き込めるように入力フォームを開放していましたが、幸か不幸か書き込む人は誰もいませんでした。よって書き込みは全て私が自ら書き込んだものです。
BBSでのユーザー同士の会話で話が進むようになっているので、ある意味BBSでのストーリーじみた書き込みこそがこの作品の本編とも言えるかもしれません。
しかし書き込みの保存がめちゃくちゃで書き込み時間の表示がおかしくなってしまったのはお恥ずかしい限りです。
そしてそんなインターネット上での活動とリンクして現実世界に展示されたのが佐賀大学美術館での作品展示でした。
上の写真が実際に佐賀大学美術館に展示されたときの様子です。
タタリのパネルと映像が流れるモニターと彼女が着ているTシャツを再現した服、そして空の水槽を設置しました。
この空の水槽というのは展示を見に来た人が自由に物やメッセージが書かれた紙などを入れていいように設置しました。モニターで流していた映像でも説明しています。
そして上の写真が総合展終了2日前の様子です。
…我ながらひどいですね
もちろんこれも私が準備した演出です。写真が写った誹謗中傷の張り紙も私が全て一枚一枚手作業で貼りました。パネルの顔にもマーカーペンで落書きしました。
この日初めて展覧会に来た人はこの様子をいきなり見ても訳がわからないと思いますが、なんとなく怖いと思うのではないのではないでしょうか。私も自分でやっておいて何度見ても痛々しい様子だと顔をしかめてしまいます。
これが実在する作品としての一番の狙いでした。
インターネットの事情に詳しくない人でもこのように張り紙を貼られている様子を見ると、なんだか怖いとか嫌だなという気持ちになると思います。ネット上での炎上ごとでなくても、ご近所トラブルなどで張り紙を家に貼り、嫌がらせを行うというのは、割と昔から行われていた古典的な方法だと思います。
さらにこの黒い張り紙もあとで追加しました。
これはBBSの掲示板を読んでいるとなんとなくわかると思いますが、一部の過激なファンが暴走してこんな怪文書を書き上げて貼りに来たという演出です。この文章も一語一句私が書き上げました。気が狂うかと思いました。
しかしこの黒い紙に書いてある文章も狂っているだけという訳でもなく、バーチャルYotuberに限らず何か実在のアイドルや作品に心が救われた経験がある人なら、ほんの少しだけ理解できるのではないでしょうか。だとしても行きすぎた感情だと思いますが。
さらにこの文章にはネット上での繋がりにも救われていたとも書かれています。
このテーマは主にBBS上の書き込みで表現しました。
顔も名前も知らない相手とインターネット上で同じ話題を通して繋がれる、そんな様子をなるべくBBS上で描きました。
しかしその様子すら作られた虚像という…
インターネット上での繋がりは本当に存在するのか、書き込みで会話している相手が本当に存在するのか、現実以上に不確かなものだと思います。
そして、今回作品を発表した総合展のテーマが「人との繋がり」であり、私はネット上での繋がりにフォーカスを当てたいと思いこの作品作り始めました。
さて、総合展での展示はこれだけではありませんでした。今年はオンライン展示という形で、clusterというアプリケーションを使ったバーチャル佐賀大学のキャンパス内で展示を行っていました。
元々タタリは映像をバーチャル空間のステージ上に映像を流すのみでしたが、バーチャル佐賀大学「さだいさんぽ!」を運営している方からバーチャル上でイベントを行ったらどうかとの提案をいただき、せっかくならと実際に行わせてもらいました。
実際に行われたイベントのページ
【穂古理タタリ イベント】佐賀大学オンライン総合展2020-connect ×「さだいさんぽ!」
上の写真のようにバーチャル空間で動かす用に簡単なタタリの3Dモデルを作りました。(VRoidという無料のキャラメーカーで作りました)
元々ちゃんとしたイベントのようなものを行うつもりで作った訳ではなく、来場者がタタリの映像をバーチャル空間で見ている横に3Dモデルで動くタタリが現れたら面白いかなーと思い作っておきました。
まさか本格的なイベントを行うことになるとは思わず、トークイベントと称して雑談配信を1時間ほど行いました。
本当だったもの
散々自作自演でやったことを書き連ねてきましたが、私が想定していなかった「本当に起こった出来事」もありました。
1. 動画の再生数・チャンネル登録者など
動画のチャンネル登録者、再生数、Twitterのフォロワー数は自演ではなく、自然と増えたものです。
SNSに関しては作品考案当初は複数アカウントを作り自作自演をしようとも考えましたが、さすがにそれはやりすぎだと考え、一切テコ入れなしでやってみることにしました。
もちろん数は少ないものの、少しでもタタリに関心を持ってくれた方が数字として存在していることが実感できて嬉しかったです。
2. バーチャルイベントに来てくださった方々
先ほど説明したバーチャル佐賀大学でのイベントですが、イベント企画を持ちかけられたのも一応本当です。でも、イベント企画当初はたぶん誰も来ることはないだろうと思っていました。
しかしありがたいことに5人ほど来てくださり、その方々は総合展で知った方や、たまたまcluseterというアプケーションを使っていて訪れた方などでした。全く想定していなかったので本当に驚きました。
イベントでの様子。トークイベントとは名ばかりで、自由にバーチャル空間をみんなで遊んだりしていました。
(写真は来場者の方からお借りしました)
来場者の方とのツーショット。独自のアバターからその人の個性が出ます。(この写真も来場者の方からお借りしました)
タタリのトークイベントというイベント名でしたが、主にバーチャル佐賀大学内に展示されていた総合展の作品を紹介し、個人的に解説したりと、一応総合展の宣伝と作品紹介に一役買ったのではないかと思ってます。
それと、来場者の方からclusterの使い方や遊び方を学んだりと、タタリのイベントなのに与えたものよりも、もらったものの方が大きい気がします。
初めて会ったはずなのにタタリに優しい言葉や応援の言葉をくださりました。本当に人との出会いは一期一会だと実感しました。
3. 水槽に入れられたもの
会場にて来場者が自由に入れられるようにしていた水槽ですが、実はこれも誰も何も入れないだろうと思っていました。
しかし実際には少しずつではありますが、日に日に入っているものが増えていきました。
聞いてみると同じ総合展出品者の学生の方も入れていたそうですが、私自身学生の中にも知り合いがほとんどいないため、それでも意外というか驚きでした。
おそらく世界初のタタリのファンアートです。とても上手でかわいいですね。めちゃくちゃ嬉しかったです。(ちょっと泣きそうになりました)
そして最終日。
…一気に増えました。まさにタタリの有終の美を飾るように大量のタタリの似顔絵が入れられていました。
ちょっと信じられませんでした。まさか最後にこんなサプライズが起こるとは…
とにかく水槽にものを入れられていたことがあまりにも嬉しかったので、一つ一つ紹介するページを作りました。自己満足ではありますが、もしよければ見てください。
と、水槽に入れられた心優しいものたちを紹介しましたが、実はこっそり私が水槽に入れていたものもありました。
TwitterやBBSにも写真が上がっていた思いますが、上の写真にある「死ね」と書いた紙は私自身が準備し入れたものでした。
この紙は後々炎上する時のための布石と言うか、ジョブのような形で
準備していたものでした。
そしてこの紙を総合展公開の4日目に入れたのですが、次の日の午後にはなんと水槽の中から消えていました。今も紙がどこに行ったのかわかりません。
これは完全に予想外でした。こんなものが入っていてもみんな無関心に通り過ぎると思っていました。
来場者か監視員かわかりませんが、誰かが意図的に取り出したと考えるべきでしょう。一緒に入っていたおさかなさんの折紙は残されたままでした。
(ちなみにこのおさかなさんの折紙は一番最初に水槽に入れられたもので、よくみると小さくメッセージが書かれています)
私は驚きとともに、穂古理タタリという存在が確実に現実の中に形を持ち始めたという実感が湧きました。
もはやタタリは私自身だけのものではなく、心配されるほどに誰かの心に存在し始めているのだと思いました。
そして、私はこれらの「本当に存在したもの」に出会うたびに、このようにタタリのことを応援している人たちを騙すようなことをしていることに強い罪悪感を感じました。
作品を考案した際には誰にも知られず気づかれないままタタリは炎上し消えていくのだろうと思っていました。だから一つのキャラクターを痛々しい目に合わせても何の感情も湧かないだろうと感じていました。
しかしタタリのバーチャル活動を始めたことで意外にもこの現実世界には無関心ばかりではないのだと思いました。
たしかに無関心に展示を通り過ぎる人もたくさんいますが、立ち止まってくれる人は決して0ではない、たとえ一瞬だけでも彼女に興味を持ってくれる人がいるということを私は知りました。
そういう関心を持ってくれた方、タタリを一瞬でも心配してくれる方々の気持ちを無下にしてしまう気がして、最後の炎上、引退の流れを変えようとも思いましたし、穂古理タタリというキャラクターを続けて生かしていこうとも思いました。
しかし、しっかりインターネット上での炎上の怖さ、人との繋がりの難しさを表現したかったため、最後までやって終わりにしようと思いました。
何がともあれ、みなさまを騙すような作品になってしまったことに違いはありません。応援してくださった方々には申し訳ありませんでした。とても意地悪な作品でしたが、この作品に触れた方が何か考えるきっかけになっていたら幸いです。
まず何より私がこの作品を通して得られた部分が大きいです。私はこの作品を作れてよかったです。
さいごに
長々と作品解説を書いてしましましたが、本来なら作品で伝えるべきことをこうして文章で説明してしまうのは野暮なことで、私の力量のなさを実感じます。しかし、この作品自体がかなりわかりにくい構造で誤解を招く危険性があるので、細かい説明が必要だと思いここまで書きました。長い解説を最後まで読んでいただきありがとうございました。
そして穂古理タタリというキャラクターを見守っていただきありがとうございました。
またいつか誰かが必要としてくれる時がくれば、タタリはひょっこり戻ってくるかもしれません。
また会える日まで、しばしさようなら。
2020.11.29 プロデューサーK